いのち
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修学院フォーラム「いのちを考える」
第3回 いのちについてーキリスト教倫理と一般倫理のはざまから
これまでの生命倫理・医療倫理の枠を越えて、「いのち」をどのように考えるのか、その根本のところを様々な方のお話を伺いながら考えて行きたいと思います。
講師:関根 清三 
( 東京大学大学院人文社会系研究科・文学部教授)
 キリスト教は、1)創造論的には主として肉体的ないのちについて、2)救済論的には霊魂的ないのちについて、語っていると解せましょう。3)両者はどう関係するのでしょうか。また4)キリスト教倫理がいのちについてこうした語り方をするとき、特殊キリスト教的な意味合いしか持たないのか、それともより普遍的な意味合いを含むのか。5)もし含んでいるとすると、それは一般倫理と相補的な関係を形成し得るものなのか否か。そうした一連の問題について、ご一緒に考えたいと思います。
より具体的には、1)について、創世記1・2章の釈義に出発します。特に、「神は言われた、我々にかたどり、我々に似せて、人を造ろう、そして海の魚、空の鳥、家畜、地の獣、地を這うものすべてを支配させよう、と」(1:26)、および「主なる神は、土の塵で人を形づくり、その鼻に命の息を吹き入れられた。人はこうして生きる者となった」(2:7)の二箇所の釈義です。そして5)との関係において、ハイデッガー、アーレント、デリダ、ハヴェル等を参照しつつ、存在の所与性や贈与の不可能性といった考え方との関係が問われましょう。
また2)については、ヨハネ福音書3、5、14章等の読解や3)の吟味を経て、イエスにそもそも贖罪思想があったか否かをめぐる、マルコ10章、14章の検討へと進みます。特に、「人の子は仕えられるためではなく仕えるために、また、多くの人の身代金として自分の命を献げるために来たのである」(10:45) 、そして「これは、多くの人のために流されるわたしの血、契約の血である」(14:24)という二箇所の検討です。それらを踏まえ、やはり4)5)の問題意識をもって、個人の倫理的責任を重視するカント、ルサンチマン論に基づくニーチェ、ナチス体験を踏まえたレヴィナスらの贖罪思想批判や、西田幾多郎の場所論、ティリッヒの象徴論等との対論がなされる必要がありましょう。
キリスト教倫理と一般倫理が互いに裨益し合い、相互の緊張関係を持する可能性を探る、こうした考察の中から、いのちについての新しい展望を模索してみたいと思います。           (関根 清三)

2011年11月 5日 (土) 13:30~17:30
場 所:関西セミナーハウス
参加費:2,000円 学生500円
締切日:2011年11月 2日
<講師プロフィール>
関根 清三(せきね せいぞう) 氏
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部教授
1950年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科倫理学専攻博士課程修了。東京大学より博士(文学)、ミュンヘン大学よりDr.Theol. 現在、東京大学大学院人文社会系研究科・文学部・教授   主要著訳書: Die Tritojesajanische Sammlung redaktionsgeschichtlich untersucht, BZAW175, de Gruyter, 1989 『旧約における超越と象徴 -解釈学的経験の系譜-』東京大学出版会、1994年(和辻哲郎文化賞、日本学士院賞受賞) 『倫理思想辞典』山川出版社、1997年(共編著) 『イザヤ書』岩波書店、1997年 『旧約聖書の思想 24の断章』岩波書店、1998年〔改訂版、講談社学術文庫、2005年〕 Transcendency and Symbols in the Old Testament:A Genealogy of the Hermeneutical Experiences. BZAW275, de Gruyter, 1999 『死生観と生命倫理』東京大学出版会、1999年(編著) 『性と結婚』(『講座 現代キリスト教倫理』第2巻)、キリスト教団出版局、1999年(編著) 『倫理思想の源流-ギリシアとヘブライの場合』放送大学教育振興会、2001年〔改訂版、2005年〕 『倫理の探索 ―聖書からのアプローチ―』中公新書、2002年 『エレミヤ書』岩波書店、2002年 A Comparative Study of the Origins of Ethical Thought: Hellenism and Hebraism.  Rowman & Littlefield Publishers, 2005. 『応用倫理学事典』 丸善株式会社、2007年(共編著) 『旧約聖書と哲学 現代の問いの中の一神教』 岩波書店、2008年 『ギリシア・ヘブライの倫理思想』東大出版会、2011年
  
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